鬱漫画って、暗い話万歳なのに、なぜか先が気になってしまう不思議な魅力がありますよね…。
今回は、筆者おすすめの面白い鬱漫画を紹介します!

なお、この記事ではまず「鬱漫画とは何か」という私なりの定義の話から入っているので、前置きが長いと思われる人もいるかもしれません。
とにかくおすすめの鬱漫画を早く紹介してくれという人は、次の目次から「おすすめの鬱漫画」に飛んでください。
鬱漫画とは何か
おすすめ鬱漫画を紹介する前に、まずは「鬱漫画とは何か」を考えてみたいと思います。
現在、鬱漫画の意味に対して明確な定義はないようです。辞書の横断検索をかけても鬱漫画でヒットする項目はありませんでした(2025年現在)。
にもかかわらず、「鬱漫画」で検索すると様々な漫画がヒットするのが現状です。鬱漫画とは、多くの人が独自解釈して「こういうものだ」という自分なりの意味や定義をもって使っている言葉といえるでしょう。
では、どのような漫画が鬱漫画といわれているのでしょうか。
鬱は、気分がふさがった状態のことを意味しています。

気分が鬱鬱している、憂鬱だ、の鬱です。
つまり鬱漫画とは、「気分がふさがってしまうような暗い展開の漫画」「気が滅入るようなしんどいストーリーの漫画」と考えることができます。
ちなみに、漫画サイトや書店サイトで「鬱漫画」のキーワード検索を掛けると、うつ病経験者のエッセイ漫画などが上がってくることがあります。
確かにこれらも鬱漫画といえるのかもしれませんが、多くの人が使っている鬱漫画とは「うつ病体験者の漫画」というよりは、「読むと鬱になってしまいそうな漫画」という意味に近く感じます(あくまで個人的な感想ですが)。
よってこの記事では、鬱漫画という言葉を「気分がふさがってしまうような暗い展開の多い漫画」の意味で使っていきます。
鬱漫画はなぜ人気?鬱漫画が好きな人の心理は?
この記事を書くにあたってびっくりしたのは、鬱漫画は非常に人気のジャンルだということです。
検索ボリュームを見てみると、ミステリー漫画やバトル漫画よりも鬱漫画というキーワードの方が圧倒的に多く検索されています。
ここで疑問が出てきます。
鬱漫画はなぜ人気コンテンツなのでしょうか?鬱漫画が好きな人はどんな審理で漫画を読んでいるのでしょうか?
鬱漫画を読む理由については、一人一人違うのだから一般的なことは言えません。ただ自分自身について考えれば、鬱漫画とは「漫画家のストーリーテーリングの技量を十分に味わえるジャンルだから」であり、また「つらいときに明るい話を読むとかえって落ち込むことがあるから」でもあります。
漫画家のストーリーテーリング能力が発揮される鬱漫画
まず、鬱漫画というのは暗い展開だらけです。読んでいて嫌な気持になったりするようなことが何度も起こります。
しかし、ここで「読むのをやめた」とされては、商業漫画は成り立ちません。作者としては、暗くて嫌な話なのにどこか面白い、続きが気になって仕方がない、どうしても次のページを読んでしまう、とさせなければいけないのです。
つまり、私にとっての鬱漫画とは「漫画家のストーリーテーリングの技量を十分に味わえるジャンル」なのです。

力量がなかったり、ただただ胸糞悪い展開を描いている漫画であれば、このような「続きが読みたい」という心境にはなかなかならないからですよね。
落ち込んでいる気分に寄り添ってくれる鬱漫画
また私は、気分が落ち込んでいたり、迷っていたりするときにこそ、鬱漫画を読んでしまうことがあります。
自分が暗い気持ちのとき、友達や同僚のハッピーな話題を聞きたくない人は多いのではないでしょうか。同様に、落ち込んでいたり迷っていたりするときに明るい話を読んでも、なかなか頭に入ってこない場合があります。

重症な時には、漫画の登場人物にさえ嫉妬を抱いてしまう場合も…
こんな状況のときは、鬱漫画の方が気持ちになじみやすいのかもしれません。
このあたりの心境は、絶望系の物語や明言を紹介している頭木弘樹氏の著書を読むと納得できると思います。
例えば、以下の本の前書きを見ると、暗い気持ちのときにあえて鬱漫画を読んでしまう心境がいくらが理解できるはずです。

↓絶望系の名言を残しまくっているカフカの言葉を紹介した興味深い本です。
私が考える良質でおすすめな鬱漫画とは
そういった意味で私が考える良質な鬱漫画とは、ただの胸糞悪い漫画ではないのです。
基本的に人の不幸を散々描き尽くせば、それは暗い展開になるのは間違いありません。
ひどい目に合うのが、弱いものであればあるほど、それは痛々しく、読み手に嫌悪感を与えるでしょう。
しかし、その背景設定に納得ができなかったり(嫌な展開を起こすためにつじつまの合わない話になっているなど)、暗い展開の中に先を読ませる力がなかったりする漫画は、個人的には良質な鬱漫画とは言えないと思います。
よってこの記事で紹介している鬱漫画は、題材が暗いというだけでなく次の点にポイントを置いています。
・著者オリジナルの舞台設定が秀逸
・暗い展開の中でもストーリーが面白く、先を読ませる作品

前書きが長くなりました。
ここからは、おすすめの鬱漫画を紹介していきます。私の独断で、鬱度のランクも付加させていただきました。
鬱漫画初心者の方は、最初は鬱度の低いものから徐々に試していくことをおすすめします。
初心者にもおすすめの鬱漫画
まずは、鬱漫画初心者にもおすすめの鬱漫画を紹介します。「鬱漫画に興味があるけれど、いきなりヘビーのは怖い」「暗いばかりの話はちょっと…」という人は、こちらのカテゴリーの作品からどうぞ!
かわいいのに案外鬱漫画な『ちいかわ』
鬱度…2/5
最初に紹介する『ちいかわ』は、SNSで大人気のキャラクター、「ちいかわ」の日常を描いたほのぼの&スリリング&鬱な漫画です。
ちいかわは、「なんか小さくてかわいいやつ」の略称です。ちいかわの世界は、食べ物がわいてくる「湧きどころ」があったり、願い事をかなえてくれる「流れ星」がいたりと、一見ファンシーで可愛らしいもの。しかし、その実態は、ちいかわ属を狙う化け物がいる弱肉強食、かつ労働や貧富の差もあるシビアな世界観なのです。
泣き虫なちいかわは、友達のハチワレやうさぎと協力し合って、この世界を生き抜いていきます。
『ちいかわ』には、かわいくて癒し系のエピソードも多いですが、一方で仲間が化け物に襲われて殺されたり、体の一部がなくなったりするような鬱エピソードも含まれており、その落差が大きな特徴になっています。

ちいかわの仲間がちいかわ属を襲う化け物になってしまったり、体を乗っ取られたりしていることがほのめかされるシーンもあります。
『ちいかわ』の世界観は謎に満ちているのですが、時々見える背景設定にはドキッとするような残酷さが垣間見えます。
ほんわかするエピソードの合間に、急に鬱な話が展開されることもあるため、「このシリーズは癒し系なのか鬱なのか」ハラハラしながら読み進めていくスリリングさが味わえますよ。
(入りは癒し系だったのに、出口は鬱漫画だった…。そんなこともざらにあります。)

絵柄が可愛く、読みやすいため、鬱漫画初心者にもおすすめの作品です。
ショッキングな絵もあるが、いい話も多い鬱漫画『死役所』
鬱度…2.5/5
『死役所』は、死後の手続きをするために死人が訪れる場所-死役所を舞台とした連作漫画です。
死亡した人間は死亡したときの体のまま「死役所」を訪れ、死亡原因などを詳しく申請書に書いて、成仏を待ちます。自殺課、他殺課、交通事故死課、人為災害死課…様々な死を経験した人たちは「死役所」で死に至るまでの経緯を思い出していきます。
基本的には死にまつわる話なので、全体的なトーンは暗めです。また、死に至るまでの過程が悲惨だったり、理不尽だったり、やるせないような話もたくさん出てきます。
死役所で働いている職員たちの過去も壮絶なものです(実は職員たちの死因にはある共通点があります)。特に主人公であるシ村の過去は小出し小出しに明らかになっていくのですが、かなり根深い暗さがあります。
とはいえ、『死役所』の各エピソードの中には、悲しいけれどもどこか救われるような良い話もあります。多くのエピソードが短編の中でしっかり完結していますし、鬱漫画初心者にも読みやすくておすすめです。

とくに死役所職員の一人、イシ間さんの過去が収録された2巻は鬱と感動のダブルパンチが味わえますよ!
設定は暗いけど希望も見える鬱漫画
鬱漫画の中には、設定はどっぷり暗いものの、読後感は案外さっぱりしている作品もあります。ここでは、「暗い世界の中にも希望を見出したい」という人におすすめの鬱漫画を紹介します。
鬱展開をエンタメ性が引っ張ってくれる『パートナー』
鬱度…3/5
少女漫画雑誌の「りぼん」で掲載していたとは思えない重たい設定の鬱漫画が『パートナー』です。
『パートナー』は、一卵性双生児の妹、萌(もえ)を交通事故で亡くした桜沢苗(おうさわなえ)を主人公としたサバイバルサスペンス漫画です。死んだはずの妹を旅先で見かけた苗は、恐ろしい状況に巻き込まれていきます。
主人公の妹の死から始まる本作は、その後もショッキングな展開の連続です。小女誌で連載していた漫画ではありますが、そのストーリーは青年誌に載っていても不思議ではないぐらいのスリリングさがあります。
萌の秘密を探る中で、主人公たちは何度も窮地に陥りながら、ピンチを潜り抜けていきます。鬱な展開も多いですが、サスペンスゲームをプレイしているようなハラハラ感も味わえるエンターテインメント作品でもあります。

全三巻と短めながら最後の最後まで、しっかり引っ張ってくれますよ。
ちなみに、同作者が描いた『こどものおもちゃ』は、作風自体は『パートナー』より明るいものの、全体の設定が重いという点では本作と共通しています。
鬱漫画好きなら、こちらにも目を通してみてはどうでしょうか。
ヘビーな真実が徐々に明らかになる鬱漫画『チキタ★GUGU』
鬱度…3/5
かわいい絵柄でボディーブローのように効いてくるやるせなさが特徴のおすすめ鬱漫画、それが『チキタ★GUGU』です。
この作品は、捕食者と被捕食者の奇妙な共同生活を描いた作品です。主人公は妖退治を家業としていたグーグー家の少年チキタ。彼の一家はラー・ラム・デラルという妖に皆殺しにされていますが、チキタ自身は「妖にとってとてもまずい人間」であることから生き延びています。ラーは「まずい人間は百年養育するととてもおいしくなる」という話を信じ、チキタの養育者になりますが…。
妖のラーは、チキタにとっては家族の仇ですが、小さいころに家族を亡くしているため、ラーに対する憎しみは見られません。
「いつか自分を食べるもの」という認識を持ちつつ、ラーに対して親しみをもって接するという不思議なスタンスを見せています。
ラーにとってはチキタは「手を掛けて熟成を待っている食糧」ですが、やはり彼もチキタに対して利害関係以上の何か感じているようです。
この関係性がこの漫画の肝であり、最終局面において最大の「鬱」をもたらします。
また絵柄のポップさに対して作品全体の世界観も倫理観の薄暗いもの。

特にクリップというキャラクターの背景描写はトラウマものです。
ただし、この作品は決して暗いままで終わってしまう鬱漫画ではありません。究極の愛とは何かや自己選択の尊さを深く考えさせられる構成は見事で、第7回Sense of Gender賞特別賞も受賞している作品です。
一読すればあなたの心に残る漫画になるはずですよ。
アクションも社会問題も含んだおすすめ鬱漫画『GUNSLINGER GIRL』
鬱度…3/5
『GUNSLINGER GIRL』は、イタリアを舞台に少女たちとテロリストの戦いを描いた作品です。
この作品の主人公は、犯罪に巻き込まれたり、事故や病気などで体に損傷を受けた少女たちです。彼女らは、記憶を抹消されたうえで義体と呼ばれる人工の体を与えられ、イタリア政府の対テロ組織「社会福祉公社」(表向きは障害者支援事業を行う組織)に所属して、日々テロリストと戦っていきます。
少女たちは、体を改造されるだけでなく「条件付け」と呼ばれる洗脳措置も施されています。この「条件付け」により、自己犠牲を伴うような任務でも担当官に絶対服従する、という設定です。
ストーリーラインを軽く紹介しただけでも、倫理的に問題が山積みの設定ですね。
特に担当官の成人男性と10代の少女たちの依存関係に心理的な嫌悪感を覚える人も多いと思います。

しかし、本作には貧富の差や右翼組織によるテロ、放射能など複雑な社会問題、そして少女と担当官(あるいは敵テロリスト)の切ない心の葛藤が丁寧に描き出されているという大きな魅力があります。
各担当官と少女たちの関係にも様々なバリエーションがあります。彼らの関係がどのような結末に向かっていくのかは一見の価値あり。

個人的にはリコとジャンの関係性が変化していく描写が好きです。
激しい戦闘と文学的にも感じる日常のコントラストも見事で、クラシカルなヨーロッパの雰囲気が好きだという人にもおすすめできる漫画です。
鬱漫画で哲学漫画『ファイアパンチ』
鬱度…4/5
『ファイアパンチ』は、再生能力を持った主人公の復讐と再生を描いたダークファンタジーです。
本作の舞台は、氷の魔女によって極寒になった過酷な世界です。この世界では、時に特別な能力を持つ「祝福者」という存在が生まれます。
主人公のアグニは、再生能力を持つ祝福者。飢餓状態の村を救うため、彼は自分の腕を切っては、それを食料として村人に与えていました。しかし、村を訪れたベヘムドルグ王国の軍隊にこれを見とがめられ、村は「人肉食いの村」として焼かれてしまいます。
まず、「自分の腕を切って食料として与えている」という設定がエグすぎますね。
さらに、村を焼いたドマには、「対象者が焼き尽くされるまで消えない炎を出す」という能力があります。再生能力があるアグニは、いつまでも焼き尽くされず、体は焼かれながら再生を繰り返すという無限地獄状態に陥ってしまうのです。
序盤の設定がすでに鬱の嵐ですが、その後も次々とシビアすぎる設定が続き、読者の心をえぐっていきます。
また、後半に進むとカルト宗教や正義の問題に絡んでくるような難解で、時に錯綜しているような展開も増えます。おそらく人によってどのようにもとらえられる鬱漫画なので、自分なりの解釈をしてみてください。

読み進めるのになかなか覚悟が必要な作品ではありますが、個人的な読後感は不思議とさわやかでした。
日常と地続きの絶望が心をえぐる鬱漫画
次に紹介するのは、ある日まで普通に生活していた僕たち私たちがいきなり絶望に叩き込まれる「日常と地続きの鬱漫画」を紹介します。
主人公たちに感情移入がしやすい分、鬱度もプラスに!一方で、登場人物たちが困難に立ち向かう姿には、どこか励まされる気持ちにもなりますよ。
八方ふさがりの絶望感がスゴイ鬱漫画『ぼくらの』
鬱度…4/5
『ぼくらの』は、思いもかけず地球存亡をかけた戦いに巻き込まれる少年と少女たちの物語です。
夏休みの自然教室で、洞窟内にいた奇妙な男に誘われ、ロボットを操作する「ゲーム」に参加することになった子供たち。しかし、この「ゲーム」は、地球を侵略してくる敵と命を懸けて戦うという本物の戦闘だったのです。
子どもたちが参加したゲームには、参加時には明らかにされていなかった様々な「裏」の顔があります。その設定のエグさには、「よくこんなことを考え付くなあ」と感心してしまうほど。
また、戦闘に参加する15人の少年少女たちの生い立ちや背景も、大部分が非常に重いです。
彼ら彼女らが死の覚悟をもってロボット(ジアース)に乗り込むのは、日常的に背負っているものが影響しているところもあり、一つ一つの戦いにドラマがあります。
その分だけ、読者側にも読み進める覚悟が必要なのですが…。

このゲームの真の姿や進行役であるコエムシの正体など、様々な謎がちりばめられているので、「精神的にクルのにページをめくる手が止まらない…助けて…」という状態に陥ってしまうはず。
とはいえ、ただただ暗い鬱漫画というわけではなく、「生きていること」の尊さも感じさせる強い物語性もこの作品の大きな魅力です。

とくに最後の一ページの何とも言えない命のきらめきは、読後しばらくは心に残り続けることでしょう。
なお、アニメ版は漫画とは途中から漫画とは全く別の路線に行っているようですが、OPとEDは本当に素晴らしいので、一度チェックしてみてください。
戦争とラブストーリーの見事な融和『最終兵器彼女』
鬱度…4/5
『最終兵器彼女』は、彼女が兵器になってしまった主人公の葛藤が描かれる漫画です。
物語は、北海道に住む高校三年生のシュウジがドジっ子の同級生ちせから告白され、付き合うところから始まります。
恋愛漫画のようなスタートを切ったのもつかの間、札幌が敵から空襲を受けた日、シュウジが目にしたのは、羽をはやした「兵器」としてのちせの姿でした。
日常を過ごしていた少年少女がいきなり戦いに巻き込まれるという構図は『ぼくらの』と共通している部分があります。
ただし、『ぼくらの』は、その戦いを行う意味が徐々に明らかになり、登場人物たちも目的を理解しながら戦うのに対し、『最終兵器彼女』の場合、「どうしてその戦闘が行われているのか」「敵、とは何か」という明確な説明は省かれています。
代りに目立つのが「純粋な彼女がいきなり兵器にされてしまい、何もわからないまま戦争に巻き込まれていく」という理不尽なシュチュエーションです。
「ちせ」は人間的な感情を徐々に侵されていきながらも、シュウジへの想いを振り切れず、シュウジもまたそんな「ちせ」を見捨てられません。

戦争の理不尽さを感じさせるとともに、「世界規模の究極のラブストーリー」でもある本作。恋愛系鬱漫画が好きな人には、ぜひおすすめしたい漫画です。
作中でほのめかされる敵の正体やラストシーンなど、意味深な描写も多いので、考察好きの方も是非!
見かけに騙されるな!ギャップが激しい鬱漫画
ファンシーな絵柄に惹かれて読んでみたら…「これ、鬱漫画じゃん!」。そんな風に驚いた経験はありませんか?
ここで紹介するのは、そんなギャップが激しいおすすめ鬱漫画を紹介します。かわいい見た目と絶望感の落差がよりあなたの鬱度を加速させるでしょう。
ディープな自分探し系鬱漫画『おやすみプンプン』
鬱度…4/5
『おやすみプンプン』は、現実感のあるシュチュエーションが胸に迫ってくる鬱漫画です。
普通の小学生「プンプン」は、転校生の田中愛子に一目ぼれをします。将来はアイドルになりたいという彼女と親密になっていったプンプンですが、「プンプン」の家庭ではDVが起こり、愛子もまた宗教に入れ込む母親という悩みを抱えていました…。
この作品では、「プンプン」の小学校から青年時代までが時系列で(主に女性とかかわる形のエピソードで)描かれていきます。その中では思春期の闇の中をさまよっているようなやるせなさや、人とかかわる恐ろしさ、毒親やDV、宗教問題などの普通の日常に潜んでいる鬱描写が次々と襲ってきます。
『おやすみプンプン』の大きな特徴は、ひよこの落書きのような形をした主人公。主人公とその家族以外は、普通の人間として描かれているので、最初はその落差にびっくりするでしょう。
しかし、後半になるにつれ、この「ひよこの落書き」は変容していきます。そのさまがストーリーの鬱度の深まりと相まって、より強く読者を暗澹たる気持ちにさせていくのです。
この漫画の登場人物たちは、どこにでもいそうな普通の人たちですし、ストーリーの中に宇宙人や戦争などの非日常的な設定は見られません。
その分だけ「いつ自分が同じ立場になるか分からない」「私の隣で起こっても不思議ではない」という感覚に陥ってしまうでしょう。

青春漫画と思って読んでいるといつの間にか胸がぞわぞわしてくるような、そんな鬱漫画です。
短くて鋭いおすすめ鬱漫画『タコピーの原罪』
鬱度…4/5
『タコピーの原罪』は、短いながらも非常に密度の濃い鬱漫画です。
本作は、小学生の「しずかちゃん」がタコのような形をした宇宙人「タコピー」と出会うところから始まります。おなかがすいているところをしずかちゃんに助けてもらったタコピーは、「ハッピー道具」でしずかちゃんを幸せにしようと奔走しますが、なぜか結果はいつもバットエンドになってしまい…。
タコピーのゆるっとしたデザインに騙されて読みだすと、びっくりするほどの陰鬱な展開がまっている衝撃の鬱漫画です。
ジャンプ+で連載中は、その絵柄と内容のギャップや謎めいた展開から考察が大いに進んだ話題作でもありました。
作者がインタビューにて「陰湿なドラえもん」というだけのことはあり、人をハッピーにするための「ハッピー道具」は、まさにドラえもんの「ひみつ道具」をほうふつとさせます。
↓インタビューはこちらから読めます!
『ドラえもん』でも、のび太が間違った道具の使い方をしてピンチに陥る展開は多いですが、『タコピーの原罪』の場合は、そのピンチが犯罪をともなったものであったり、ピンチというよりもデッドエンドだったりするので、まったく油断できません。
上下二巻とここで紹介している鬱漫画の中では比較的短いので、一気読みを推奨します。

「そういうことか」という練られた伏線が多いのも特徴です。決して明るくはありませんが、読み終わった後は少しだけ幸せになれる…かも。
鬱描写と甘々描写のジェットコースター『ねずみの初恋』
鬱度…4/5
『ねずみの初恋』は、殺し屋少女の純粋な「初恋」をトラウマ級の痛い(物理的に)描写で描き出した鬱漫画です。
殺し屋として育てられた少女・ねずみは、ある日、ゲームセンターで軽く会話しただけの青年・碧(あお)に「ひとめぼれした」と告白されます。恋愛関係を楽しんでいた二人ですが、「ねずみ」の属する組織がその関係を見過ごすはずもありません。碧を殺せと迫られたねずみは、ある提案をします。
この漫画、とにかく人を痛めつける描写に妙なリアル感があります。見ていて本当に痛々しいのです。またねずみの背景をはじめ、心理的にずんっとくるようなエピソードも多く、全体的な鬱度がとても高めです。
この鬱度をさらに強化しているのが、ねずみと碧の甘酸っぱい恋愛描写です。
少女漫画かな?と思わせるような初々しい恋愛関係が描かれた後に、めちゃくちゃ暗い殺しの場面が展開されるので、気持ちはジェットコースター状態。

暑い外からクーラーの中に入ると、すごく寒いのと同様、温かい描写の後の鬱描写だからなおさら心がやられてしまうんですね。
鬱鬱としながらも「ねずみちゃんと碧君がどうなるのか」という興味で、次々先を読んでしまうのは間違いないでしょう。
気の弱い人はUターンを。絶望感MAXのおすすめ鬱漫画
最後におすすめするのは、スタートからゴールまで絶望感MAXの鬱漫画です。ちょっとぐらい暗い展開に慣れているという人でも、しんどくなるような鬱漫画を集めました。
人によっては本当に精神的に来ると思いますので、注意して読んでください。
人間関係ドロドロの殺戮ホラー鬱漫画『ミスミソウ』
鬱度…5/5
『ミスミソウ』は、鬱漫画の代表作ともいえるほど陰惨で恐ろしい展開が繰り広げられるホラー漫画です。
きっかけは、父親の仕事の都合で都会から田舎に引っ越してきた少女、野咲春花(のざきはるか)がクラスメイトからうけていた執拗ないじめでした。いじめはエスカレートし、ついに同級生は野咲家に放火。両親は死亡、妹は重傷を負います。ここから始まる春花の復讐劇がこの漫画のメインストーリーです。
「いじめで放火までする?!」と驚く人もいるかもしれません。
私も『ミスミソウ』を実際に読むまでは、大げさなストーリーだと思っていました。しかし、この放火はいじめグループ内のゆがんだ人間関係が影響しており、実際に漫画を読むと放火まで行きついてしまうことにも説得力があるのです。
この人間関係のいやらしさがまた恐ろしい…。
さらに、春花の味方に見えるある人物の裏の顔にも度肝を抜かれます。
人間の怖さをこれでもかと思い知らされる鬱な展開が満載で、一切救いのないストーリー、まさに鬱漫画の代表作なのですが、なぜか読む手が止まらない…。

これから『ミスミソウ』を読む人は覚悟をして一巻を手に取ってほしいと思います。たった6巻の中に地獄が詰まっています。
ちなみに『ミスミソウ』はKindleUnlimitedに登録すると、全編が読み放題になります(2025年5月現在)。
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夢も希望もない鬱漫画『銭ゲバ』
鬱度…5/5
銭ゲバは、どん底設定の第一人者といってよいほどの漫画家、ジョージ秋山先生による鬱漫画です。
ただ、銭がない。それだけのために、病の母を助けられなかった少年、蒲郡風太郎(がまごおりふうたろう)が、「銭こそすべて」という価値観の元、手段を選ばず銭の力で成り上がっていく物語です。放火、窃盗、そして殺人を繰り返し、たどり着いたその先は…。
この漫画は、もう第一回目の少年時代編から読者をどん底に叩き落します。
正直、ここで脱落してしまいそうになるのですが、ゆがんだ価値観に染まり、世間に復習するように悪行を重ねていく風太郎の姿からだんだん目を離せなくなるのがこの漫画のすごいところ。
学もない、支援者もいない中で、ただただ銭の力を信じ、走り続ける風太郎。
「銭がすべて」と言うそのとき、必ずフラッシュバックするのが、泣いてすがっても「銭がないから」と母を助けてくれなかった世間の姿です。

どこかで本当の愛を求め、そしていつも裏切られてしまう、そんな風太郎の姿にはなにか人を引き付けるものがあります。
暗くて鬱なのに、どうしても読むのをやめられず、そしてたどり着く衝撃のラスト!読み終わった後のむなしいような、もの悲しいような満足感は、ぜひ多くの人に味わってほしいものです。
『ミスミソウ』とはまた方向性が違いますが、救いのない鬱漫画上級者向けの作品といえます。
ちなみに『ミスミソウ』同様に、『銭ゲバ』もKindleUnlimitedに登録すると、全編が読み放題になります(2025年5月現在)。
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鬱漫画度S級『アシュラ』
ジョージ秋山は飢饉の際に産み落とされ、人を食って生き延びる少年を主人公とした『アシュラ』という問題作も描いています。
余りの過激さに発禁問題を引き起こした本作は、『銭ゲバ』以上にグロテスクな描写が多く、食事前に読むのは全くおすすめできません。
より深い鬱漫画の世界を求めている人は、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は、おすすめの鬱漫画を13作品まとめて紹介しました。
鬱漫画は下手をすれば、読み手のその日の気持ちを台無しにしてしまう劇薬ではありますが、ときには悩みに寄り添ってくれる妙薬にもなりえるはず。
暗すぎるストーリーに翻弄されながらも、ついつい読むのをやめられない快感は、ジェットコースターやお化け屋敷を楽しむ心理にも似ているかもしれません。
ぜひお気に入りの鬱漫画を探してみてくださいね。
なお、本サイトでは、鬱漫画とは対極にあるような「癒し漫画」についての紹介記事も書いています。鬱漫画を読みすぎた時は、こちらの漫画を読んでちょっと療養してみるのもいいかもしれませんよ。
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